急に変われと言われても

すぐ下の妹が高崎駅までクルマで送ってくれるというので、
あちこち寄り道しながら行こうということになった。

前の日のおしゃべりで、井上陽水の奥さんがだれだったか
ど忘れして、気持ち悪かったけど、やっと思い出した。
どうして平山ミキとごっちゃになっちゃうんだろうね、
なんてのんびりおしゃべりしてたのに、突然
「運転変われないかな?」なんて言い出す。
なんか調子が悪い、って。ええっ、それって・・・。
なに、どうしちゃったの、それに運転て。
もう10年くらい運転なんかしてないのに、やめてよ、
何言い出すのよ!ってあわてた。

わき道に入って少し休もうって言うのに、入ったら
戻れなくなるような道ばっかりなんだよ、って
蚊の鳴くような声で言う。とりあえずの目的地には
広い駐車場があるから、そこまでは頑張る、って・・・。
じっとりと手や脇の下が汗ばんでくる。

広い環状線を右折するので、とにかくその交差点まできて、
信号で止まる。ここを曲がれば、すぐだよ、がんばれ、
と上ずった声で励ますと、
「だめだ、変わって・・・」ってあんた・・・。
反対方向の直進のクルマが青信号を待って、ずらっと並んでる。
そうだ、わたしは右折ってやつがとっても苦手だった。
しかもオートマなんて知らない。
とても無理、あ〜!!どーするんだ、運転しとくんだった、
と激しく後悔するが、どうしようもない。

そうこうするうち、信号は青になった。クルマの列は
全然途切れない。
「行けそうになったら、言って・・・」
このままわたしたち、どうなっちゃうんだろう、
あ、今行ける!
「行って!」とわたしが異様に高ぶって言う。
ぎゅーんと右に曲がり、20Mくらい行ったところで
路肩に寄せて止まった。すぐ先が工事中で片側通行に
なってる。それ以上先に止めるのは迷惑な、ぎりぎりな所。

サイドブレーキはわたしが引いた。
妹は長い息をついて、脱力した。
「意識が遠くなりそう・・・」よくここまでがんばって
くれて、ほっとしたけど、いったい彼女に何が起きてるの?
無性に不安に駆られる。

わたしはすぐにケータイで、藤岡の自宅にいた一番下の
妹に電話。
すぐに来てくれると言う。救急車はどうする?
と言うので本人に聞くが、大丈夫と言う。

それなのに、迎えを待つ間、たまたま救急車が通ると、
「あ・・・」なんて言う。呼ぶべきだったの?
30分後、反対車線から、やっと来た、待望のお迎え。
長かった、正直言って。

迎えのクルマをしかるべき場所に置きに行く間に
近くのD病院に今から行くって連絡しといて、と
彼女はてきぱきと指示を出す。なんか慣れてる感じ。
運転ができない上、この辺の地理にも疎いわたしは、
まったくの役立たず。
ケータイで調べて電話するのが関の山。
情けないことこの上ない。

ようやく病院に着き、過労でしょう、点滴しましょう、
という結果になって、やっととりあえず安心した。
病院に来たせいか、顔色がよくなっている。

それにしても、帰省して過労で点滴とは・・・。
子どもが一緒じゃなかったのは、まだしもよかったかも
しれない。