群生

いつもと同じ時間に家を出て、高崎線に乗って
父が入院している病院に向かう。
高校時代まで住んでいた町だ。
個室なので遠慮もなく、母と3人、他愛のない
おしゃべりに興じる。病気なんてないみたいに。
近所の散歩に母と出かけてみる。
昔住んでいた家は、病院から5分くらい。
周囲は開発されたりしてすっかり変わっているけれど、
我が家だった家は、変わらずにあった。
西洋館と呼ばれていたころの優雅な雰囲気は
まったくなく荒れていたけど。
木々の緑が鮮やか。菜の花やだいこんの花が群生していて、
曇り空に奇妙に映える。
季節はずれのうぐいすが、ごく近くでゆったりと啼いている。
15年くらい前に急死した恩師のお墓の話をしたら、
母は亡くなったことも憶えていなかった。

きっときょうのことは、思い出になる。