この町の話

会社には徒歩で行く。その間は、住宅街だ。
古いモルタル2階建アパートの、道路に面した2階の
窓から、おばあさんが下の道路を歩く私を見ている。
おばあさんはニコニコして、「行ってらっしゃい」。
帰りには「ごくろうさま」。
わたしは愛想よくにっこりする。
そして実家の母に、罪悪感を覚える。外面いいわたし。

別のアパートからは、妙に大きく鳥の声が聞こえて
くる。
なんだろうと見ると、とある部屋の網戸をした窓の
内側に、インコのような鳥が3羽いる!
カーテンレールにかけた洗濯物干しに止まり、外を
見て鳴いているのだ。
そこらあたりは何かうっすら糞の匂いがしている。
ワンルームで鳥放し飼い?

また、ある一軒家は、帰りに通ると、1階も2階も
電気が煌煌とついている。カーテンはない。人の気配は
あまり感じられない。
お年寄りの一人暮らしなんだろうな、と思う。
寂しいから、全部の部屋を明るくしているのだろうと。

前にも書いたセンダイヤ青果店には、店が賑やかだった
最期ごろにちらちら見た男性が残った。
値段は高くなった。従業員も次々辞めた。
今はその男性がひとり。お客は激減してる。
けど、わたしは通っている。先日6時半ごろ行ったときは、
もう終いかけだった。レジに野菜を持っていくと、
「314円、でもお釣りがないんだよ。ちょうどにして」
と言う。わたしも細かいお金が全然なかったので、
それならやめときます、と言ったら、
「いいよいいよ持ってって、この次でいいから」と無理矢理
もたされた。

その近くの鶏肉専門店が、突然閉店していた。
総菜もあって、よく買い物したのに。やっぱり専門店の
品物は断然おいしかったのに。
わたし位の年齢の使用人の男性がふたりいた。
彼らはどこに行ったんだろう。