高崎線で

がら空きの高崎線の車内で、向かいの席に座っている兄妹に目が行った。
お兄ちゃんは中学生、妹は幼稚園生、そんなお年頃。お兄ちゃんは
ゲームをしながらも妹のことをとても愛おしく気にかけていることが伝わってきた。
二人とも目力があって、いい顔をしていた。


そんな二人を見ていたら、幼なじみだったユキちゃんとヨシコちゃんの兄妹のことが
蘇ってきた。

ユキちゃんはかっこよくて成績も良い優等生、いつも皆の注目の的だった。
ヨシコちゃんは4歳年下だったと思う。
ユキちゃんは、中2の時、突然、手の付けられない反抗期に突入した。
おしゃべりもしなくなったまま中学を卒業以来、彼と会う事はなかった。

高崎駅のホームで、彼とヨシコちゃんにバッタリ出会ったのは、数えてみれば、7、8年
ぶりだったのかもしれない。

三人でボックス席に座って、おしゃべりしながら赤羽まで行った。
ヨシコちゃんが受験で、確か日芸だったような気がするけど、ユキちゃんは、彼女の
付き添いだと言っていた。緊張気味のヨシコちゃんを励まそうと、わたしも
頑張って他愛のないおしゃべりをしたのだった。
ユキちゃんはとても元気で楽しそうで、反抗期前のままだった。
ヨシコちゃんは言葉少なだったけど、目の涼しい美少女になっていた。
ユキちゃんがヨシコちゃんをかわいくって仕方ないのをすごく強く感じたっけ。


ヨシコちゃんが自殺したって聞いたのは、それからまた数年経ってからのことだ。
もう、それが具体的にいつだったかは、思い出せない。

その後の同窓会でも、わたしは彼に一度も会ったことはない。ただ、教師になったらしい、と
やはり教師になったケイちゃんが言っていた。

ユキちゃんに会ってみたいけど、きっともう、会うことはないんだろう。


そう思って向かい席の二人を改めて眺めながら、ふいに、この二人がいつか地球を救う
ヒーロー、ヒロインになるかも、などと思った。
彼らにとっては迷惑な夢想だったのかもしれないけれど。